「チェックメイト」
「あら」
 細道の操るキングが、芥の眼前に辿り着いた。芥は細い目を僅かに見開き、賞賛を贈る。
「やるじゃない。以前もそうだったけれど、あたしにチェスで勝てる人なんてなかなかいないわよ」
「そうですか? いやあ、俺もやり甲斐がありますよ」細道は緑の双眸をわずかに縮めて嗤う。「芥さん、滅茶苦茶強いので」
 芥は目をまたたかせて細道を見た。人好きのする明るい雰囲気を纏ってこそいるが、その目元には影がかかっている。ちょうど窓から差し込む陽の光の角度が、そこに深い影をもたらしているのだと気づくまで、そう難くなかった。
 芥は同じように嗤った。
「そうね、あたしも張り合いがいがあるわ」
「マジですか? なら、今考えていることも一緒かな?」
「一緒かもしれないわね」

 白子のごとき指を繰り、盤上に駒をセットしていく。並々倒れた兵どもが、その休息を許さじとばかりに再び立ち上がるそのさまは、リビング・デッドのようでもあった。
「もう一戦いいかしら」
 そう問うと、細道は一層笑みを深くして、こう答えるのだ。
「俺もたった今、そう言おうと思ってたところです」