玄武が観覧席から体育館を駆け回る女子の太腿を見つめていると、背中を誰かに小突かれた。小突かれるのは慣れっこであった彼がのんびりと振り向くと、そこには虎男が立っている。
「おう、やっとんなぁ、ドスケベ坊主」
「まだ坊主じゃないんで…」
ふさふさの茶髪に覆われた頭を掻きながら、再び視線を体育館に戻す。10代女子のハリのある肌といったら玄武に言わせれば最高で——彼は熟女も好きだったが——、この高校が共学である喜びを噛み締めているさなか、虎男はというと、同様に女子バスケを見下ろしている。
「いやあなたも助平目的なんじゃないですか」
「一緒にすんなや」
虎男の目線の先を玄武が追うと、そこでは朱夏と蒼龍が館内を走っていた。長身の二人はこの球技では滅法重宝されるようで、あちこちからパスを回されては果敢にゴールに挑む姿が見て取れる。
ふと、蒼龍がこちらの視線に気がついて顔を上げた。空を裂くような声でおうい、と叫ぶ。
「虎男ー! 玄武ー! サボりかー!!」
「見ればわかるでしょーッ! 言うなーッ!!」
玄武が叫ぶと蒼龍はゲラゲラと笑った。隣の朱夏も口元を押さえて笑っているようだ。己はこれから教師にこってりと絞られることが確定したわけだが——女子の笑顔に引き換えられるものなど存在しまい。嘆息とともに虎男に同意を求めようと目を向けると、虎男はじっと下を——蒼龍を見ていた。
「? なんです? 透けブラでもしてました?」
「アホか、ちゃうわ。いや——アイツ、声でかいなあ思て」
それは玄武も頷けるところだ。この騒がしい体育館にあって蒼龍の声を聞き取れなかった者はいなかったようで、誰も彼もが彼女に注目している——だからこそ厄介なのだが。
それがどうしたんです? 玄武がそう問うと、虎男はくっくっと小さく笑いながら、欄干に凭れかかり、こう呟いた。
「おもろいなあって思ただけや」
———………
「……えっと、ぞっこんラブってことですか?」
「ちゃうわボケ」