神なんて信じちゃいないのに、己の最良の為に神父をやっているのだという。それは鳴刺とは対極をなす生き様だったものだから、彼がヴィクトル・アダムスへの現在印象を一言で表すならこれに尽きた。「可哀想な人」。 無論、それを伝えれば彼はシニカルに嗤い、そうだろうと言って憚らないのだろう。
 鳴刺は人間の形をした悪魔であったから、自嘲など求めるところではなかったのだ。そこで、こんな風に表現を変えてみた。

「キミは利他主義の、とっても善い人なんだね!」

 そうするとヴィクトルは表情をさっと変えて鳴刺の胸倉を掴むから、鳴刺にはそれが面白くてたまらない。――そうそう、そういう反応がいつだって僕は見たいのさ。
 獲物だって、逃げ惑い、食らいついてくれた方がよほど狩人にとってはスリリングで都合が良く、焼き付かんばかりの思い出にさえなった。常に鳴刺はそんな獲物を欲する狩人で、怪物だった。
 俺を殺したいなら殺しゃあいい。神父がもし、そう嘯くのなら、鳴刺は胸を張ってこう叫んだ。

「殺すかよ! まだまだまだまだ、キミの地獄はこれからなのに!」