軽快な音がした。バットが硬い球を打ち抜いて抜ける空に飛んでいく音。青春の音だ。ボールが白い入道雲にまっすぐ消えていき、じきに怒鳴り声が響いてくる。窓から身を乗り出してみれば、はるか眼下にて、野球部員が帽子を取ってへこへこと顧問に謝っているのが見えた。
ふと目が合う。彼は一瞬だけわたしから目を逸らして、それから照れたようにはにかんだ。
わたしが大きく手を振ると、彼は小さく振り返す。それからグラウンドの中に駆けていき、ぐんぐんその背が遠くなった。
ねえ。そうだよね。
きみに似合うのはその青空と青春の音で、わたしに似合うのはこの影差す暗い回廊なの。