こっくりと深い紅の闇の中に先生が鬱蒼と立っていた。あの人は人外じみて端整な顔立ちの持ち主だったから流石にギョッとする。ただその、遠い存在と見まごう金の瞳の色は優しく凪いでいたから、帰路に着く生徒達を見送っているのだな、と気付くのにはそう難くなかった。

「先生」

 何でこんなとこにいるんすか。道着のまま駆け寄って俺は問うた。丁度体育館の前にいた先生は、ああ、と俺に目をやると、鉄皮を思わせる相貌で淡々と答えた。

「もうすぐ冬が来るだろう」
「冬?」
「それが明けると春が来て、雪が解ければ桜が咲く…」

 俺はすぐに合点が言った。

「…先生もそういう事考えるんすね…」
「ふふ。何を言っている。お前達は殊更、大事な生徒だからな」

 鉄皮がふっと和らいで少しだけ口許にしわができ、彼の教師人生を物語る。この人はそうやって、何人もを育んできたのだろうーーこの学舎から。

「…俺…、支原先生が担任でよかったって、思います」
「そうか」
「はい」