投稿者: nzeenz1 / 144 ページ
「なにこれ、最悪」
「……言うほどか?」
ヴィクトルは瞠目した。鳴刺は白けきった顔でトルティーヤをつまんでいる。ディップ付けすぎじゃないか。だから太るんだよお前は。お小言を抑え込んでヴィクトルは鳴刺を窺った。喜怒哀楽の閾値が高いことは知っていたが、映画をここまで酷評したことはおそらくなかったと思う。
「暗すぎるし、起伏もないし、アクションもないし、なんか説教臭い」
「そこがいいんだろ」
「ヴィクトルはそういうのわりと好きかもしれないけどさあ、映画ってエンタメなんだよ、エンタメ」
黒革のソファもいささか草臥れている。鳴刺の萎びれた体を、その気分ごと受け止めているためか。
彼の横顔の向こうにある景色は雨脚を増していた。遠くで鳴り続けているノイズめいた雨音は、鳴刺の機嫌をさらに損ねる要因かもしれない。俺は雨、嫌いじゃないんだけどなぁ。ヴィクトルはそら思った。
一ノ瀬はそうっと有元の顔を伺った。そのくちもとが小さく笑っていた。
「だから、すみません、俺、年末年始はいっしょにいられないんですけど」
「——なにを言うかと思えば。そんなあたりまえのことを私に訊くな」
許可なぞ取らずとも帰ればいい。そう返すと有元は、いささか照れたかのように首をすぼめて頷いた。