投稿者: nzeenz62 / 144 ページ
最期に見たのはすべてを喰らうような闇と黒炎。最期に聞いたのは何かが猛る声、引きつった女の吐息。漏れ出す僕の笑い。すぐに激烈な痛みが襲い掛かり、そのうちに僕という存在は消えて無くなったけれど、その痛みこそ僕の望んだ地獄の姿だったから、何も怖くはなかった。
ーー世界はすぐ、じきに不幸になる!
金城陽一は驚いていた。
自分は死んだのではなかったか。少なくとも、これから自分は死ぬのだという、あの瞬間に感じた、存在そのものが無に帰し自我が宇宙に消失する恐怖と絶望、焦燥だけはいまだ心に燻っていた。無我夢中で、誰の声もせず視界すら閉じられて、何を口走ったのかさえもはや覚えていない。
「――わたしは絶対幸せになるんです。わたしの愛する人が、わたしの愛した人たちが、わたしの幸せを祈ってくれたこの場所で」
小さく、小さく。祈るようにつぶやいた。誰にも聞こえずに雪の中に消えていった、その音波は、けれど確かに存在したって、今わたしが。わたしだけがそれを、証明してあげられる。