暁様と望とコスモの話

朱点童子打倒から5~6年後くらいの話

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暁「すいやせーん」

 

叢雲「えっ…暁様!?」
樋掛「死んでなかったんスか!!」
来花「今までどこほっつき歩いてたのよ!」

暁「殺すなや、めっちゃ元気だったわ」
来花「1年に1回でいいから帰ってきなさいよ!」
暁「おーおー わりいわりい」

暁「…ところで望っちは?」

 

コスモ「……死にましたよ」
暁「は?」

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コスモ「あんたが朱点倒したあとまもなくこの家を出て、ブラブラほっつき歩いてる間に。あの人、死にましたよ。去年の暮れに!」

暁「…………………」

暁「マジかー…」

暁「で、墓どこ?」
叢雲「えっ? お、お墓ですか?」
暁「案内してくれや」
来花「なんつうマイペース」
樋掛「変わんないッスね!」

コスモ「……いい加減にしてください!!」

暁「あ?」

コスモ「あの戦いを一緒にした従兄の死に目にすら駆けつけてくれなかった放浪親父なんかに、墓の場所なんて教えるわけない!」

コスモ「今だって、あれだけ仲良くしてた望さんのために泣きもしない!」

コスモ「あんたは京にとっては英雄かもしれませんけど、僕にとっては家に何年も帰ってこない、無責任で冷たい、父親の価値さえもない男です!!」

叢雲「こ、コスモ! 落ち着いて…」

暁「……………」

暁「わーったよ」

樋掛「えっちょ 暁サマ!」
暁「晩には戻るわ」

コスモ「……」

来花「…コスモ」

コスモ「…何ですか」

来花「あのね 暁は何も冷血なわけじゃないのよ」

来花「望はね、自分の死に顔を見せたくなかったのよ
だから報せの一つも出そうとしなかっただけなの」

コスモ「…?」

来花「望はね、暁の記憶の中で
いつまでも強くて頼れる戦友でいたかったのよ
きっと暁もそれをわかってるはずだわ」

コスモ「……」

来花「だから、二人の気持ちも汲んであげてね」

 

コスモ「……すいません来花さん
僕、お父さん探してきます」

暁「じゃ~~~~~ん」

暁「これな~~~~~んだ」

暁「正解は北の町で買ったお酒でした~~」

暁「すげー美味かったから
お前と飲もうと思って買ってきました~~」

暁「おめー好きだろ、うまい酒」

暁「乾杯」

暁「おめーもどうだコスモ」

コスモ「…………気づいてたんですか」
暁「そりゃおめー、俺のこと誰だと思ってんだ?
神よりつええ男だぞ」
コスモ「…それもそうですね」

コスモ「父さん」
暁「あー?」
コスモ「…さっきは…すみませんでした」
暁「素直に謝れる良い子ちゃんでちゅね~」
コスモ「……からかってるんですか」
暁「いやいや 誰に似たんかなって考えてたとこよ」
コスモ「少なくとも父さんではないです」
暁「だははは 確かに」

コスモ「…父さん 家に戻ってこようとは思わないんですか?」

コスモ「もう鬼はどこにもいません。
都は平和になりました。呪いももうない…」

コスモ「父さんが家にいながらして好きなことをできる時間だって
山ほどあるはずです」

コスモ「来花さんも樋掛さんも、叢雲もいるじゃないですか
…何が不満なんですか」

コスモ「そりゃ、呉服屋なんてつまらないものかもしれないですけど…」

暁「つまんねえもんなんてこの世にはねぇよ」

コスモ「…え」

暁「呉服屋、結構じゃねーか。上等な着物、かっこいいよな」

暁「農作もいいかもな。
汗水流して働いて作った大根はうめぇんだろうな」

暁「メシも食い歩きてえな。
食ったこともないもんが世の中にはいっぱいある」

暁「勉強も悪くねえ。知れば知るほどやりたいことが増えていく。
ワクワクするよな」

暁「女漁りも楽しそうだ! あの時交神した神よりも美人な女がいるかもしんねーしな」

暁「あと、神楽に和歌も…」

コスモ「と、父さん?」

暁「コスモよぉ、俺にはやりたいことが多すぎるんだわ」

暁「おめーとここで呉服屋やって暮らすのも楽しいかもしれねえ。
ここで暮らしながらどっかの武家の手伝いすんのもいいかもな。
鬼がいねーっつっても人間同士の戦争はあるわけだし」

暁「でもなあ、俺はよ、いかんせんコレだからよ」

暁「俺も呪いが解ければ時間なんて腐るほどあると思ってた。
でも違うんだ」

暁「いざ解けてみりゃ、時間がねーのねーのって。
あと50年生きられたとしてもきっと足りねえって思うんだから、
実際のところはもっと時間がねえんだろうな」

暁「毎日が楽しくてしょうがねえ!」

暁「…だからここにはいらんねーんだよ。
ワリィな」

コスモ「………」

コスモ「…なんですかそれ、勝手ですよ…」

コスモ「そうやって残された僕らに、寂しい思いをさせるつもりなんですか…」

暁「そういうんじゃねーよ」

暁「コスモよぉ、俺も望っちと同じなんだよ」

コスモ「…え?」

暁「老いて弱る姿は来花達に見せたくねぇの」

コスモ「…なんで…」

コスモ「家族なんだから、絶対受け入れてくれますよ!」

暁「そうじゃなくてよー、俺と望っちの誇りの問題なんよ」

暁「…ま、戦場に出たことがねえてめーには一生かかってもわかんねーだろうな!」

コスモ「……そんなのずるいですよ」

暁「なあに言ってんだ」

暁「その方が良い」