手弱女「朱雀!これあげる」
朱雀「なんですかそれ」
手弱女「一族史よ」
朱雀「え 一族史?イツ花がつけているものではなく?」
手弱女「イツ花のはおおざっぱだからね あたしたちの先祖が個人的につけはじめた記録なの 日記みたいなもんかしら」
手弱女「あたしたちのご先祖様はけっこうマメなお方だったらしくてね」
手弱女「あたしもあたしの父さんも書いてきたものなの
だからあんたにあげる」
朱雀「あげるとは」
手弱女「でもあんまり個人的なこと書きこんじゃだめよ ずっと残るから」
朱雀「はあ」
朱雀「代々続いてきた日記か」
朱雀「…とりあえず読んでみるか」
江戸「1019年4月」
江戸「今日から個人的に記録をつけることにした」
江戸「イツ花の一族史は本人に似て結構雑だし」
江戸「旭の兄貴もあれでかなり適当なところがある」
江戸「花笠も大島もまだ年若いし」
江戸「そういうわけで俺がやるのが1番適任だろうと判断した」
江戸「先日、俺達の母君、吉野が鬼籍に入った」
江戸「これからは兄貴、旭が2代目当主として一族を導いていくこととなるが」
江戸「こんな家の生まれだ 恐らくは兄貴の代も長くは続かないだろう」
江戸「この記録が何代にわたるかはわからないが」
江戸「悲願を成すその日まで この記録が続くことを願う」
豊「1020年6月」
豊「はっきり言って関山は何を考えてるのか全然わかんない!」
豊「あたしの渾身のダジャレにもあまり笑ってくれないし!」
豊「あたしは言葉にしてくれなきゃわからないから」
豊「ちゃんと関山の役に立てているのか不安になる」
豊「もっとも 関山はものすごく強いから」
豊「もしかしたらあたしの助けなんて必要ないのかもしれない」
豊「1020年10月」
豊「鳥居千万宮で稲荷狐次郎を打倒」
豊「関山に言われた」
関山「わたしはきっともうこれが最後だから
わたしがいなくなった後、頼むね」
豊「あたしは関山のこと誤解してたのかもしれない」
豊「関山はあたしたちをいつも守ってくれていたのに」
豊「…次の当主になるはずの、嵐くんは、ちゃんと見守ってあげよう!いっぱい笑わせてあげよう!って」
豊「そう決めた!」
二上「1022年11月」
二上「昔、嵐と話したことがある」
二上「朱点を討っても呪いが解けなかったらどうする?と」
二上「ありえない話じゃない」
二上「僕はあの黄川人とかいう輩のことを信用していないのだから」
二上「鵯は、朱点を討てば僕が助かると、信じているようだが…」
二上「僕は助からない そんな予感がする」
二上「鵯には悪いが 兼六の訓練は一切手を抜かない」
二上「これで終わらなかった時、後悔しないように」
二上「これで終わらずに、絶望してしまっても、また立ち上がれるくらい、強くなるように」
二上「そうして使命を遂げた時、ようやく胸を張って、嵐や丁字さん、明星さん…そして母さんに報告できる気がするのだ」
錦「1023年11月」
錦「今日、望月が死んだ」
錦「俺は朱点戦には参加していないが」
錦「望月や御車兄さん、桐ヶ谷兄さん、そして鵯姉さんの憔悴しきった顔は今も記憶に新しい」
錦「きっと辛かったと思う」
錦「俺や兼六もきっとじきに死ぬ」
錦「俺達には時間がない」
錦「けれど望月は言った」
錦「たまには立ち止まるのもいいものだと」
錦「アホだと思う」
錦「そうしている間に犠牲が出てもいいのかお前は」
錦「でも望月らしいとも思った」
錦「このアホに仕えられたことを俺達は誇りに思う」
錦「兼六と二人で迎えに行くから、花や空でも眺めながら待っていてほしい」
白雪「1025年3月」
白雪「園里兄さんはバカだ」
白雪「あの人には能力がある けれどもそれをちっとも活かそうとしない」
白雪「後世の為に生き急ぐということをあの人は多少学習するべきだ」
白雪「先代望月様が仰られたという遺言を律儀に守っているのかもしれないけど…」
白雪「そういう余裕は、武勲を挙げた者にこそ許された権利だと思う」
白雪「1025年5月」
白雪「結局あの人はその魂を認められて、天に昇った」
白雪「あの人は正しかったの?私は間違っていたの?」
白雪「最後まで恰好のいい事ばかり」
白雪「そうこうしてる間に高嶺に言われて気が付いた」
白雪「そういえば私、一族だの、悲願だのでなく、自分自身の人生を考えた事がなかった」
白雪「女を磨く気持ちの余裕さえ なかった…」
白雪「あちらに逝ったら、園里兄さんは笑って許してくれるかしら…」
突羽根「1026年10月!髪を倒した!」
突羽根「1026年11月!今月も髪を倒した!やっぱりオレはすごい!」
突羽根「1027年1月!さらに髪を倒した!オレ一人で全部倒せるんじゃねーか!?」
突羽根「1027年4月、髪を倒した!!!」
突羽根「でもたぶん、これで終わりだ」
突羽根「オレはすごいし、強いけど、寿命だけはどうしようもない」
突羽根「もうすぐ多分オレは死ぬし、それに、もう陽光はいない」
突羽根「まだ髪は残ってるけど」
突羽根「もう十分かなって思ってる」
突羽根「楽しかったし…それに」
突羽根「陽光や紫たちと一緒じゃなきゃつまんねえから」
突羽根「蝦夷を最後まで見守るとか ほんとは書いたほうがいいのかもしれねーけど」
突羽根「オレにはぶっちゃけ使命とか悲願とか、どーでもよくて」
突羽根「ただ」
突羽根「オレがかっこよく活躍して そんで陽光とか紫がいて 鷲尾サンのこと振り回せればそれでいいから」
突羽根「だからこれで、終わり」
手弱女「1028年4月」
手弱女「蝦夷の息子 枝垂がやってきた」
手弱女「あたしたちにとっては9代目の当主になる」
手弱女「この家に、新しい子が来るということは」
手弱女「同時に、もうすぐ死が訪れるということでもある」
手弱女「蝦夷」
手弱女「8代目当主」
手弱女「けれど先代、陽光様のお顔を知らないあたしにとっては、当主といえば蝦夷ただひとり」
手弱女「多分遠くまで来たのだと思う」
手弱女「地獄が開いた今 あたしたちの夢は目と鼻の先にある」
手弱女「でも、すんでのところできっとあたしたちは届かないんだと思う」
手弱女「蝦夷と一緒にその先に行けないことが悔しい」
手弱女「あいつらともっともっと一緒に生きたかった」
手弱女「枝垂」
手弱女「あんたがあたしや蝦夷の」
手弱女「あたしだけじゃない、大勢のウチの一族の」
手弱女「夢の先に進んでくれることを」
手弱女「この記録が、次の代で終わることを願う」
朱雀「…………」
朱雀「…………」
朱雀「1029年、8月」
朱雀「この記録を託してくれた母上も最早この世にはいない」
朱雀「…もっとも らしくない名前と共に天に上がり
今も先代蝦夷様と共に我が一族を見守っているのであろうが」
朱雀「明日、我々は朱点に挑む」
朱雀「機は十分に熟したと当主は判断された」
朱雀「…俺は 一族の歴史の中でも恐らく最も強いだろうと評された」
朱雀「蝦夷様も、母上も、加茂兄様も、四季姉様も、冬兄様も、勿論枝垂当主も、仰っていた」
朱雀「自分ではわからないが」
朱雀「皆が口を揃えて言うのならば、そうなのかもしれない」
朱雀「俺は…」
朱雀「自分の強さなど興味はない」
朱雀「…強いことは 我が一族においてはこの上ない力なのだろう」
朱雀「それは誇りに思っている しかし」
朱雀「俺が気にしているのは、ただ」
朱雀「当主が…枝垂が」
朱雀「枝垂が己の弱きを補う為に、今まで積み重ねてきた血のにじむような努力が」
朱雀「せめて報われるように」
朱雀「鬼にじゃない あいつの背に負わされた大きな期待と責任と、多くの命に」
朱雀「あいつが負けないように」
朱雀「今まで、江戸様から続いてきた、俺の先祖たちがそうしてきたように」
朱雀「最後まで支えるだけだ それが俺の使命なのだと思う」
朱雀「そうして最後に」
朱雀「その重荷が降りるのなら」
朱雀「俺のことなどはどうでもいい」
朱雀「ああ…今日は早めに寝なくては」
朱雀「決戦が近い」
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朱雀の予定遺言(「その辺のドブ川に捨てといてくれればいいよ、俺の死体なんぞは」)がめっちゃ潔くて、強さの割に自分に頓着してない感じがしたので、
多分こういう気持ちで最後は臨んだんだろな~…という妄想です